転職

友人が転職を果たした。それは退職から 10ヶ月を要した。
仕事がきつい 人間関係 等々 私には解らないことが多いが その中の 理由の一つは理解している。
それは 北海道ツーリングだ。彼は24時間操業の工場で働いていた。交代勤務で 夜勤もあり 一年中苦虫を噛み潰して ひたすら夏を待っていた。
  ここの職場の良い所は 唯一夏場に 10日ぐらいの長期休暇の取れる事だった。しかし 不況による 職場環境の悪化と共に 唯一の北海道ツーリングの楽しみが 実現不可能になってしまった。

 彼は思い切って 飛び降りることにした。幾らかのお金を貰って 早期退職してしまった。
彼には彼なりの 計画があった。第一に 夏にいつもどうり 北海道ツーリングに行くこと。
 第二に 国の斡旋する訓練校で 国費で仕事に有利な資格を 取得すること。
 第一の 北海道ツーリングは 訓練校の関係で 10日間の日程になった。でも 彼には
これで 十分満足だった。あれだけ 行きたかったツーリングだったが 失業者には 長期間家を空けるのは 怖かったらしい。
 第二の 資格取得は 幾つかの国家資格を取って ほぼ計画どうりに進んだ。そして去年の暮れ 試しに受けた就職試験がヒットして 見事就職してしまった。
ここまでは 計画どうりだった。年収は大幅ダウンしたが 前よりも気楽に 仕事が出来ることが 何よりだといって 笑っていた。
 しかしここに 大きな誤算があった。この仕事も 長期休暇を取ることは 不可能だということが分かってきたのだ。「この仕事 いつまで続くかわからんなー」彼は一年前に見せた 疲れた顔をして笑った。
 彼の転職は もろもろの理由があって いちがいに言えないが、北海道ツーリングに行けない事が きっかけになったことは 少なからずあると思う。

彼のツーリングスタイルは 独特のもので ゆっくりのんびりの アメリカンスタイルで、行くコースも 毎年ほぼ同じ 私からすると「何処が楽しいんだろう」 と思うぐらい 毎年毎年同じことの繰り返しだった。しかし良く考えれば 私なんかよりずっと 旅を楽しんできたのかもしれない。一年ぶりの北の大地を ゆっくりと味わうのは たいへん贅沢なことなのかもしれない。
 私などは 未だに欲張って 色々な所へ行く為 結局何も見ていないことになってしまう。
私は私なりに 彼は彼なりに お互い終わらない旅に出掛けている。

 北海道ツアラーは 年々減っていると聞く 。そのツアラーの多くが リピーターで占めていると思う。有名キャンプ場や ライダーハウスは ベテランツアラーで 満員状態になっていることも多い。リピーターの多くが 一年ぶりの旧友の再会を 楽しみにしている。
今の 北海道ツーリングは 以前ほど敷居の高いものではない。現地でのトラブルも少なくなった。リピーターにとって 夏の北海道は 癒しの場所になっている。
 夏の北海道ツーリング 行った事の無い人にとっては 理解不能のイベントかもしれない。
それは ツーリングライダーや キャンパーと言う名の 濃ーい濃ーい人たちに出会える
日本でも 数少ない場所であると思う。
そういう私も ここ4年ほど 北海道に行けずにいる。今年あたり 復活宣言をしたいところだ。

冒頭の友人の話だが 彼はもう飛び降りる勇気は無い。世間の風に触れて 失業者の悲哀を しこたま味わったという。それに もう転職するにはエネルギーが足りない 彼はもうすでに りっぱな「おっさん」なのだから。
1月11日 記
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