雨男U(今度こそ 本当の雨男)

前回では まだまだ雨男としての経歴には 不足だと思うので もっと強烈なやつを書いてみようと思います。10年位前の ゴールデンウイークの事です。

その時のツーリングは 九州宮崎にフェリーで上陸しました。出発の大阪では 少し曇りでした。航行中の瀬戸内海でも 何とか曇天のままだったものの やがて宮崎に入港する前に小雨となっていました。フェリーで一緒だった 多くのツーリングライダーは 宮崎入港と共に その日の宿の予約をする為に 港の電話に殺到していきました。その多くは 宮崎市内の宿でした。
私はといえば キャンプツーリングの予定で 道具一式を積んで その時の相棒 VT250Fで えっちらおっちら 宮崎県と鹿児島県の境にある えびの市営露天風呂という施設に予約を取っていた為 雨のなかを 走っていきました。

ここは コテージがあって寝袋と 自炊道具があれば 格安で泊まれる(当時)ライダーにはありがたーい処なのでした。もちろん 露天風呂つきです。
宿に着く頃には 一時雨もやんで少し暖かくなってきました。しかし 肝心の露天風呂は 側を流れる小川が流れ込んで かなりぬるくなっていましたが かろうじて入浴できました。

夜になって雨は本降りになり 雨粒はやかましく 屋根を叩きますが、快適でりっぱな建物に守られて気になりません。夜遅くなってもう一度 露天風呂に行ってみると 小川が流れ込んで 露天風呂はとうとう水没して 入浴不可となってしまいました。
その時 施設の管理人さんが来て 宿泊客全員にこう注意しました。

「私は もう帰りますが 管理棟と宿泊棟の間にある 小川の水位が もう限界まであと少しです。ここに架かっている橋が もし流れたら 宿泊棟の裏山に 逃げてください」
げっ、そっ、それはまずいっ 何で泊まる時に一言いってくれないの!
恨めしそうに 管理人さんをにらみましたが 無視して帰って行きました。

心配になり 部屋に帰って ラジオで天気予報を聞いていると この雨は記録的な集中豪雨で 各地に警報が出され そろそろ被害も報告されていました。
特に九州地方南部 霧島地方 大雨警報・・・ん? ってもしかして この近く?

アナウンサーが続けます。「 九州地方特に霧島では 大雨が降っている最中です」
「現在 日本で一番雨の降っている場所は ミヤザキケン エビノコウゲン コノアメハ カンソクシジョウ キロクテキゴウウデ・・・・・ 」
えっ 「ミヤザキケン エビノコウゲン」ってここのこと? ど真ん中やん!私は思わず部屋の天井を見上げました。 

その日は あまり寝られなくなって 夜中に荷物をまとめて いつでも逃げられるように待機して 空が白むまで待ちましたが 真夜中尋常ではない雨が降り続いて 気が気ではありません。バケツをひっくり返した という表現がありますが、とてもそんなもんじゃ 表現できません 「滝の真下にいるような」という感じでしょうか。

夜が明けて 部屋から這い出して 管理棟の手前の 問題の橋へ向かいます。橋は無事そこにありました。夜中に水没したらしく 水浸しでしたが 今は水位も少し下がっていました。
雨は 少しだけ勢いを落としていますが 止む気配はなく このまま又勢いを盛り返すかもしれません。私は こんな所で長居は無用とばかりに レインスーツを着て逃げる支度を始めました。荷作りして いざエンジンをかけようとして VTのセルを回してみました。

「キュルル キュルル カッカッカッ」 「キュルル キュルル カッカッカッカッ」
なかなかエンジンが かかりません。
「キュルル キュルル ボン ボボン」 やっとかかりました。
しかし 様子が変です。排気音は弱弱しく いまにも止まりそうで アイドリングが不安定です。調べてみると 後方シリンダーが冷たく 点火していなくて 片肺状態でかろうじて動いていました。雨でリークしているのかもしれません。
この状態で 霧島越えは無理なので とりあえず下りでエンジンの調子を見ながら 走るしかありません。(下りなら 最悪エンジンストップしても走れるから)
とにかく 一刻も早くこの場所を 脱出しなければなりません。
走り出すと エンジンは何とか復活してくれて 安心しました。
しかし さらに危険な状態は続きました。えびの高原を下っていくと 道路そのものが 川になっているところが多く 舗装路面ながら ごろごろと大きな石や 小石 砂利 細かい砂などが 道一面に流れてきます。急な下りなので ハンドルをとられやすく 汗をかきかき 奮闘しながらやっとこさ 小林市まで逃げてきました。

この後 鹿児島に行くのは断念して 熊本へ向かいました。これが正解だったようです。なぜなら この後は 熊本は晴れましたが 鹿児島は引き続き雨模様だったようでした。 この後ほぼ快晴で楽しかったのですが やはり通行止めに会うことが多く コース選定に苦労した旅でした。まあ きっちりとした計画でツーリングしないので 何とかなるといえば なるのですが・・・

この話は後日談があって 大阪へ帰ると 友人が帰る早々 電話をくれました。九州へツーリングへ行くのを 知っていた友人で 記録的な集中豪雨で 無事帰ってきたか確認の電話を 何回も掛けてくれたそうです。
当時私は 携帯もまだ持っていなかったし ツーリングに出たら 連絡しない人なので 家族も 友人も皆心配したそうです。
彼と話していて あのえびの高原の話になりました。あの日 行くはずだったコースのことを話すと もしかすると お前危なかったかも知れんと 友人は言うのです。
あのあと えびのから霧島を越えて 鹿児島へ行く予定のルートの途中で大きな事故があったのです。
鹿児島の竜ヶ水(りゅうがみず)というところで 雨のため地盤が緩んで山崩れが発生して 大きな事故になり 崩れた土砂に流されて 鹿児島本線の竜ヶ水の駅と その下の国道が土砂で埋まり 死者まで出る大惨事だったそうです。

この友人が いつも私にいう言葉があります。
「おまえみたいに ノーテンキなやつは めったにおらん」
こいつは 憎たらしい奴ですが 私には未だに返す言葉がない・・・

 BACK