アパッチ!
中学の頃 夢中で読んだ本があります。
開高健さんの「日本三文オペラ」という本です。

開高健さんという方は 大阪出身の文学小説の作家で ドキュメンタリー作家で
旅行作家で コピーライターという 多彩な作家です。

私は彼の釣りのドキュメンタリー作品 オーパ!や釣魚大全を読んでから随分のめりこみ 
ルアーフィッシングをはじめ 北海道につりに行き また旅行が好きになりました。

「日本三文オペラ」という小説は 戦後すぐの大阪の逞く生きる人々の姿を
描写した小説で どうやら半分本当の話ではないかと思われるような小説です。

戦後すぐの日本は 物資不足から 屑鉄が高値で売れました。
大阪のど真ん中の大阪城のそばには 戦中に兵器工場があり
アメリカ軍の攻撃でやられて 壊滅し焦土と化しました。

その跡地は しばらくの間 立ち入り禁止になったそうですが 
そこには 兵器工場の機械や建物の鉄骨が沢山 スクラップと化し
あちこちに残っていたそうです。

これを狙って 夜半あるいは昼日中堂々と その鉄を掘り起こし 持ち去って
売り飛ばす人達の集団が あったそうです。

このことは 犯罪行為なのですが 生きる為 当時の世相では 仕方なかったのでしょう。
(もちろん 窃盗罪になるのですが)
大阪の人達は彼らを「アパッチ族」と呼びました。

アパッチ族は 屑鉄を掘り起こし盗むことを 「鉄を食う」と言ったそうです。
「日本三文オペラ」は彼らの 逞しい可笑しい行動と結末を描いた小説で
いかにも大阪らしい 後になった今でも 名残が感じられて 楽しい小説でした。

この小説の中で アパッチ達が ホルモン(もつ肉)の煮込みを食べるシーンがあり
その描写は 見たこともないものの連続でしたが 開高さんの書き方がうまいのか
とても美味しそうで 私は興味を持ちました。

成人して酒を飲むようになってから 新世界に行ってみたり 十三(ともに大阪の繁華街の地名です)に行ってみたりして ホルモンの煮込みで酒を飲んだり ホルモンの串焼を試してみたりしたのです。

幸か不幸か それまで食べたことのないものでしたから 最初はやはりこわごわ食べたものでしたが 酔った勢いか はたまた開高健さんの影響か だんだん食べられるようになり また美味しく感じられるようになりました。


昔、高校の頃の先生が言うには 日本橋や新世界に行くやつは 不良だと言うのですが あるとき友人と新世界で飲んでいたとき 卒業した高校の先生とばったり出くわし お互い苦笑いしたものです。(日本橋や新世界は カツあげするやつが出るといわれていました・・・・・たしかに串カツは揚げてましたが・・・笑)

いまでも新世界のあたりは 当時の大阪のエキスがいっぱい残っている気がします。
それは 陽気でその日暮らしの刹那的 ラテン的 人情にもろくて がめつくて しまりやで
自己主張が強く 利己的 厚かましい・・・
よいところも悪いところもないまぜで 嫌いな人は嫌い 好きな人は大好き

はっきりしているところが 魅力なのです。

そういえば 大阪を愛する作家をもう一人知っています。
SF作家の小松左京さん。
「日本沈没」や「復活の日」などで有名ですが

開高健さんと同じ題材で 同じような小説があります。
「日本アパッチ族」

そのままです。

ストーリーは SF小説らしく この屑鉄を掘り起こす人達 アパッチ族が
本当に鉄をむしゃむしゃと食う話です。

小松左京さんも 大阪出身なのです。

最近は新世界も マスコミにとりあげられ 外の人が沢山行き来するようになり
家族連れや観光客の姿を盛んに見るようになり 暗い街のイメージが随分変わりました。

酔っ払いのオッちゃんたちは 居心地が悪くなったのか やや減りましたが
このまま街が沈没するよりかは 外の人を受け入れて 以前の賑わいを取り戻してもらいたいものです。

よいことも悪いこともない交ぜで アパッチ族のように しぶとく生き残って欲しい街です。

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