蜻蛉の道

九州大分県 国東半島は 九州にありながら 唯一瀬戸内海国立公園の一部に指定されています。
 豊後水道に大きく突き出した国東半島は 瀬戸内海性気候に恵まれて 温暖で冬あたたかく 果樹園栽培や 車えびなどの栽培漁業が盛んです。

この半島を一周するには 海沿いをめぐる国道213号線と もうひとつ半島の付け根 杵築市(きつぎし)から 国見町まで繋がる 通称オレンジロードと呼ばれる道路があります。

オレンジロードは いわば広域農道といった役割の道路で 大きな山である半島の中腹をぐるっと取り囲む 農家の果樹園帯を繋ぐ道路なのです。

ここは大分でも有名なツーリングコースで 気持ちの良いみかん畑の木陰を くねくねと続くワインディングが気持ちの良いコースなのです。

いつの頃だったでしょうか、国東へセローで向かった私は オレンジロードを半島の先端国見へと向かっていた私は 快適にワインディングを楽しんでいました。

オレンジロードの中ほどまで来た時 それは起こりました。
「バシッ」
ヘルメットのシールドに 大きな虫がぶつかって落ちました。
ちょうど視界の目のあたりに 虫の体液がこびりついています。

どうやらシオカラトンボが まともにぶつかって 落ちていったようです。
突然のことなので 面食らって バイクを停車させました。

しばらくして 気を取り直して また出発です。

こんどは ゆっくりゆっくり低速走行です。
走り出すとまたトンボが 視界に現れては ぶつかりそうになっては消え
ぶつかりそうになっては消え 前から前から次々と現れ 左右に また上に ぶつかりそうになりながら 私を避けてゆきます。
なかには ジャケットにぶつかって また飛んでゆくものさえあります。

次々次々 トンボが私に向かってきます。

この日は 急ぎの用があり ゆっくりはしていられないのですが トンボが障害になって
しかたなくしばらく低速走行を余儀なくされました。

観察してみると トンボは空中でホバリングしているらしく 飛んでいるのではなく
空中に停止しているようでした。

彼らは それぞれ縄張りを持ち 自分の縄張りの一番いい場所の空中に
ぽっかり浮かんで餌となる虫を待ち伏せしたり 他の雄を迎え撃つ準備をしたり・・・ 

彼らのホバリングポイントが ちょうど道路上の 私の眼の高さにあるようなのです。

この日乗っていたオフロードバイクは腰高で 普通の四輪車より目の位置が高くなっています。
普通自動車の屋根ならぶつからない高さにホバリングしているトンボも
オフロードライダーのヘルメットにはジャストミートするのでした。

蜻蛉州・・・・・よみがなは「あきづしま(または あきつしま)」と読みます。
違う書き方をすれば 秋津州 秋津島
意味は 大和の国または 広く解釈して日本全体を指します。
トンボは日本の国のシンボルなのかもしれません。

秋の一日 蜻蛉を見ながら もういちど国東半島をゆっくり走りたいなぁ・・・・
と思いながら 今は忙しい日々を暮らしています。



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