北海道第二夜
オホーツクから知床へ


明けて 8月10日。朝から 雨模様。とうとう本格的に降ってきた。このまま 一日ここにいるのも一つの方法だろう。そのための ドーム野営なのだから。
しかし私らしくない。それに 少しでも隊長さんに近づいていなければ 次の行動が取れない。安全を計りすぎて 離れすぎたかもしれない。

幸い台風の本隊は 北海道から離れつつあるようなので もう少し南に向かおう。
昨日 一緒に飲んだお二人さんは まだ仮宿の中で ごそごそやっているが 私は 早々とテントをたたんで 出発準備をする。昨日なるべく荷物を出さなかったので すぐに支度は終えられた。もともと稚内は 緊急避難先の宿泊地なので、長居するつもりはなかった。
しかし 昨日の利尻富士が見られたことは 大きな収穫だった。
次の目的地は 富良野あたり。札幌まで 一日で走れる距離。嵐が通り過ぎれば きっと快適だろう。昨日買っておいた フランスパンとチーズの朝食を摂りながら 曇り空の ずっと先まで眺めるが ずっと先まで雨雲の天井は続いていた。雨足は強くないが
多分一日 雨具を脱ぐことはないだろう。

トリプルさんと XJ1200さんは 私と同じ方向へ向かうという。ただし お天気待ちで出発するそうだ。一番小さく 距離を稼げないカブ乗りの私が 先に出るのが当然のこととなる。でも一日中走ったものの 抜かれるバイクは皆無に等しかった。こんな雨の中では カブが一番速い。
リッターバイクでは こうはいかない。
頼もしく大きなパワーは すべる雨の日の路面には なす術も無く 猛獣をなだめるように ただひたすらにアクセルを戻し戻し だましだまし走らなければならない。

私はといえば さほど気を使うこともなく いつもどおりたんたんと走り続けることが出来た。カブは 雨男ライダーには このうえない ベストの相棒だと思われた。突然の横風にも 思ったよりも強かった。重心の低いせいだろう。
最北端 宗谷岬
そうこうするうち 最北端の宗谷岬に着いた。間宮林蔵の銅像と 氷雪の門のモニュメントがある岬の広場に立って 写真を撮っていると しばらくやんでいた雨が また降り出した。体中にまつわりつくようなしぶとい霧雨が 際限なく降り続くように思われた。
もう 前に進むしかなく せかされるように雨の中 海沿いを南下した。  

しかし しっかりとした 最近の良く出来たジャケットのおかげで さほど不快になることも無く 宗谷岬からオホーツク沿いの国道238号の 海の景色を眺める余裕さえあった。
猿払(さるふつ)〜浜頓別(はまとんべつ)〜枝幸(えさし)冬になると流氷の見える海沿いの町は 雨の中に寒く 空や海と同じ色の灰色をして 暗く沈んでいた。

いつもいつも 青空を求めて走り続けているが、今日はこの灰色も嫌いではない。
荒れた海と くすんだ白い波 海と繋がったような空、今は落ち込むようなお天気だが
こんな景色の方が 後年ずっと忘れないでいるだろう。びゅうびゅうと鳴る風力発電の
白い巨大な風車も 灰色の空の下、昨日より りっぱに見えた。

一休みしてガススタンドで 札幌の子持ち風味さんからのメールを読む。
彼は 私がフェリーに乗っているときから ずっとメールを送ってくれていた。私が通信不能のときも 自分勝手に北へ向かったときも ずっとメールをくれていた。
メールを読むと 14日旭川にいるので 会いましょうといってくれていた。
ありがたいことだと思った。次に 隊長さんの掲示板にアクセスすると こちらはまだ見通しが立たないらしい。

隊長さんの 到着を待つつもりで 旭川から射程距離に入る 知床へ行くことに決めた。
14日までは まだ日がある。知床で釣りでもして 待つこととしよう。計画性の全くない旅なので どうでも行き先は決められる。羅臼の熊の湯キャンプ場だけは 泊まりたいキャンプ場だった。当初の予定では まず札幌で 隊長さんと子持ち風味さんと3人で オフ会をしてから 知床へ向かうつもりだったが、順序を逆にして まず鮭でも釣って お二人に見せびらかすとしよう。
この後 隊長さんには お会いできるだいたいの日にちをお聞きする為 メールしておいた。

正式に 行く先も決まったことだし、次第に天気も回復して ツーリングらしくなってきた。
興部(おこっぺ)〜紋別〜サロマ〜網走 内陸の女満別の丘に 入るつもりだったが だんだん日も落ちてきたので 寄り道せずR244号を 知床まで走ることにした。

懐かしい風景 知床半島の付け根 斜里の町から半島の先に向かう道は いつ走っても
気持ちが高揚する。海の見える 適度なカーブのアップダウンは もう少し大きなバイクで走るほうが 気持ちがいいと思われたが、カブでもなかなかよかった。
このあたりから 生活道路というより 観光道路の様相を呈して北海道観光のハイライトの地に入ったことを 意識させてくれた。

やがてウトロの町から 知床横断道路に入る。なかなか勾配がきつく感じられた。
大きなバイクでは 感じなかったことだが この過積載のカブには文字通り「荷が重い」
ようだ。

羅臼岳
知床峠を過ぎて 懐かしい羅臼岳が見えた。とそのとき ガスが驚くほどの速さで 下から上がってきた。ここの峠は いつも天気が不安定だ。晴れれば 抜けるような空と 濃い緑の羅臼岳 羅臼側には 青い海と国後(くなしり)島が 見えるのに。
峠を少し降りた所で 羅臼岳にかかったモヤを 飽きずにしばらく眺めていた。
とうとう ここまで戻ってきた。今年の5月以来だ。 感激で座り込んだ。
天気は 曇りのまま、しかし雨は降らないようなので これで良しとしなければならない。

良い写真が撮れないくらいは しょうがない。曇りなら曇りなりの 写真が撮れるはずだ。
  とは言うものの 腕が伴わないのは悲しい。もっと 感性を磨かねば・・・・

急いで峠を降りて 待望の熊の湯キャンプ場へ向かう。
キャンプ場は 数年前とはあまり変わっていなかった。キャンプ地をうろうろして 良いサイトを探し出して 隣のキャンパーさんに挨拶した。
「あの ここ空いてますけど いいですか?」
帰ってきた返事が 最悪のものだった。「へ?いいんじゃないの!俺の土地でもあるまいし」・・・・長期キャンパーだろうと思われた彼は そのとき聞いていた ラジカセをボリュームいっぱいにあげて プイッ!とあっちをむいた。

ここは ダメだ と思った。だまって 下のややナナメの斜面に移った。こんなやつと 言い争いになるのも嫌だし、注意する元気も残っていなかった。
移ったサイトのお隣さんに「こんにちは」というと、「こんにちは」と返してくれた。
これが正常な反応だろう。安心して 野営することにした。地面が ややナナメなので 寝づらいようだが なに平気なもんだ。やかましい雑音で寝られないよりは よっぽど良いと思った。いよいよ 熊の湯キャンプ場も 質が落ちたもんだな。

夜になって メールを見ようと取り出してみると 圏外だった。ドコ○さんなら りっぱに受信できるようだと、隣のキャンパーさんに 教えていただいた。
しょうがないので 走って5分の羅臼市街までバイクで降りて 掲示板を見ることにした。。

隊長さんのめどがつかないらしい、バイクは治るようだが(すごいね)今度は 青森からのフェリーチケットが 取れないらしい。いつになったら お会いできることやら。まあ気長に待つか。これといって 予定もないし。
でも 青空を追いかけたいもんだな。今日で北海道2日めだが まだ 曇りと雨しか知らない。

あわや鹿と衝突
羅臼市街で買い物をして 熊の湯に戻る途中 道路で雌鹿に出くわした。真っ暗な中で目だけが光った。昼間キャンプ場でうろうろしていた奴だと思われる。危うく轢きそうになったが 荷物を降ろした身軽な状態だったので 間一髪、衝突は回避できた。
ほんの1メートル位の距離で 回避できた。2匹連れの鹿で また直後に もう一頭横切りやがった。雄鹿のようだ。
羅臼は 私の好きな町だが こんな所で鹿に激突してお陀仏なんて まっぴらごめんだ。

今回は 動物に縁があるようだと思いながら キャンプ場にたどり着いたが この予感は
的中して この後も 動物に色々と接触することとなった。
この日の 夕食は豚汁とタン焼き肉。

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